こちらは表題の金融庁のレポートを少し荒く削り取った内容で、前回記事のまとめよりは内容的にかなり長くなっています。時間のある方向けです。
Contents
現状整理
人口動態等
長寿化
令和元年時点の平均寿命は男性で81歳、女性で87歳なのに対し、健康寿命はそれぞれ72歳、75歳。つまり、働けなくなってから寿命まで9~12年あることになる。
その間、仕事ができなくなり介護等が必要となるため、平均寿命と健康寿命の差が大きいと金融面で不安が大きい。よってこの差を縮めていくことが重要。
単身世帯等の増加
人口ピラミッドはかつての「富士山型(若いほど人工が多い)」から「つぼ型(若いほど人工が少ない)」となった。
原因としては、子無し夫婦や未婚・晩婚が急速に増えてきているため。今後もこの傾向は続く見込み。
60歳未満の持ち家比率も著しく低下してきている。
上記より、標準的と考えられてきたモデル世帯(結婚後に夫婦と子供・親と持ち家で同居、老後の親の世話は子供が見る)は標準ではなくなってきた。
認知症の人の増加
認知・判断能力に何らかの問題を持つ人の割合が増加傾向にあり、2025年には65歳以上の5人に1人が認知症となる予測。
認知症になると資産の運用や管理が適切に行えなくなるため、財産を守ることを目的として成年後見制度の利用も増える見込み。
個人の金融資産の大半を高齢者が保有する状況のため、成年後見制度の管理が今後の重要課題となる。
収入・支出の状況
平均的収入・支出
バブル崩壊以降、年齢層別でも時系列でも、収入は全体的に減少傾向にある。今後、少子高齢化に伴って年金額も調整されていくし、就労者の税・保険料負担は増える見込み。
支出も収入と同様、減少傾向にある。特に30代半ばから50代が顕著。65歳以上はほぼ変化なし。
つまり、働き盛りの世代は収入減少に伴い支出を減少させているが、高齢になると収入は減少しても支出は変わらず、高齢夫婦無職世帯の平均で月あたり5万円の赤字となっており、この赤字分は資産からの持ち出しとなる。
就労状況
日本の高齢者は他国と比べても体力・思考・意欲レベルで元気であり、働いている人の割合が格段に高く、今後も続く見込み。
若い世代は働き方が多様化し、転職・副業・フリーランスが増えている。多様なスキルを身に着けることで長く働き続ける可能性を高めている。しかしその一方で老後の収入の柱である退職金給付という点で不利。
退職金給付の状況
かつては年金と共に老後生活の柱であった退職金給付制度も、近年では減少してきている。
ピーク時からは約3~4割程度の減少で、平均1700万円~2000万円程度となっていて、働き方の変化から今後も減少する見込み。
アンケートでは4人に1人が退職金の一部を投資に回そうと考えているが、その時期がくるまで金額を把握していない人が半数ほどいる。
退職金は金額が大きいため、金融知識を身に着けてから臨むべき。
金融資産の保有状況
65歳時点での金融資産の平均保有状況は、夫婦世帯で2252万円、単身男性で1552万円、単身女性で1506万円。
退職後は年金などで足りない部分は資産を取り崩していくことになるが、前述の月あたり5万円の赤字が毎月発生すると考えた場合、20年で約1300万円、30年で約2000万円の取り崩しが必要。⇐ここが老後2000万円問題の発端
また、前述の支出は生活費を考慮したもので、老人ホームや介護費用、住宅リフォームなどは含まない。
早い時期から老後資産のシミュレーションを行う必要あり。
金融環境に対する意識
昨今の環境変化から国民の68%が老後の生活設計を考えているが、その多くがお金の不安を抱えており、主要因として「老後の備えとして想定する金額」と「現在の資産額」との間に大きな差があることが考えられる。
この不安を解消するため「長く働く」または「節約」を考える人が多い中、約3割が「若いころから資産形成に取り組む」ことを考えている。しかし実際に行動に移している人は非常に少なく、意識と行動に剥離がある。
その原因として消費者側の「資金」「知識」や、金融機関からの「情報発信」「サポート」が不足している状況が窺える。
基本的な視点及び考え方
長寿化に伴い、資産寿命を延ばすことが必要
前述の通り、平均から見れば毎月の不足額は退職後の夫婦で約5万円、仮に退職後20年~30年の人生があるとすれば不足総額は単純計算で1300万円~2000万円となる。
長寿化に伴い資産寿命を延ばすことが必要となるが、現役であれば投資による資産形成、リタイヤ前後であればさらに長く働くことや資産管理の重要性を認識することが重要。
ライフスタイル等の多様化により個々人のニーズは様々
かつては親・子・孫の三世代が同居する世帯が多数だったが、最近では夫婦のみや単独世帯が増加してきている。特に単身世帯の増加は著しい。
働き方も柔軟になり、終身雇用や年功序列の慣行も変わってきたことから資産や所得のバラツキが増え、個々人の行動も大きく変わってきている。
従来のような「大学卒業」→「新卒採用」→「結婚・出産」→「住宅購入」→「定年まで同じ会社」→「退職後は退職金と年金で生活・三世代同居」という標準的なライフプランは多くの人に当てはまらない。
今後は個々人が自ら自分に合ったライフプランを考える必要がある。
公的年金の受給に加えた生活水準を上げるための行動
単身世帯の増加と未婚率の上昇により、少子高齢化は避けては通れない。
働く世代が減ることにより、年金制度を持続させるための給付水準の調整もやむなし。
よって働く期間や支出の調整、資産形成と運営など、年金受給額も含めて自分の老後の生活状況を「見える化」し自分でなんとかする必要がある。
認知・判断能力の低下は誰にでも起こりうる
今の60代は昔と違って元気で、現役で活躍し続けている。
しかしその一方で長寿化が進み認知症の人も増加しているため、今後は認知症や判断能力の低下は誰にでも起こりうると認識すべし。
もしそうなった場合は日常生活に支障をきたす。よって事前の備えをすることが重要。
考えられる対応
個々人にとっての資産の形成・管理での心構え
現役期
- 資産形成の有効性を認識すること
- 貯蓄に加えて投資すること
- ライフプラン・マネープランを立てること
- 業者をしっかり選ぶこと
リタイヤ期前後
- ライフプラン・マネープランを再検討すること
- しっかり節約すること
- 投資を継続すること
- 取り崩しは計画的に行うこと
高齢期
- 健康状態に合わせマネープランを見直すこと(医療費や老人ホームなど)
- 取引をできるだけ簡素化すること
- 意思を代行してくれる他者サポートを検討すること
金融サービスのあり方
金融サービスは基本的に以下が重要。
- 顧客に合わせたサービス内容
- 手数料が明確
- わかりやすい情報提供
- サービスに見合う適切な価格
上記踏まえた上で、顧客の「長寿化」「自助の充実」「多様化」「認知・判断能力の低下・喪失への備え」に対する対応として以下が重要。
- 資産形成・管理のコンサル
- 商品・サービスの多様化や「見える化」
- 認知・判断能力が低下・喪失した人へのサービス
以上を踏まえて年代別に整理する。
現役期
まだ金融資産は多くなく、生活に余裕が無い。よって以下が必要。
- 資産・負債を含むポートフォリオとマネープランの提案など総合コンサル
- 短期~長期の投資の提案
- 長期を見据えた顧客との信頼関係の構築
リタイヤ前後期
働き方が変わり、退職金が入るなど変化が大きく、人によって状況が大きく異る。よって以下が必要。
- 就労延長や節約含めた、ライフプラン・マネープランの提案
- 多様性に対応した商品サービスの充実
- ワンストップ化サービスの提供(1つの業者が何でもしてくれる)
- 他社類似商品との明確な比較説明
高齢期
心身の衰えと判断能力の低下が起こる。その場合でも引き続き金融サービスを受けられるようにするため、以下が必要。
- 非金融サービスとも連携した総合的なサービスの提供
- 認知能力が衰えても変わらず金融サービスを受けられる環境作り
環境整備
資産形成・資産承継制度の充実
長期の資産形成を支援する制度として、税制面で優遇のある「つみたてNISA」と「iDeCo」がある。
「つみたてNISA」は年40万円まで運用益が非課税。20歳以上の国内居住者であれば誰でも利用でき、且ついつでも引き出し可能。
「iDeCo」は掛金の上限は年14.4~81.6万円で運用益は課税停止中。掛金は全額所得控除で、年金受給じも税優遇あり。20歳から60歳まで加入でき、60歳まで引き出しは原則不可。
それぞれの特徴を活かし併用することで様々な状況に対応しつつ老後に向けた資産形成が可能。よって両方活用すべし。
一般NISAも利用可能だがこちらは保有可能期間は5年間。退職金の受け皿などに期待。
上記制度はまだ広く知られていないが、今後広報していく。同時に利用者の声を聞き改善していく。
現時点では具体的に以下の点で今後の改善を検討したい。
「つみたてNISA」について・・・
- 時限を撤廃し、恒久的な措置とする。
- 非課税保有期間を無期限とする。
- ライフプランに沿って拠出額を柔軟に変更できるようにする。
- スイッチングを条件次第で可能とする。
- 配偶者死亡時に非課税枠を引き継げるようにする。
「iDeCo」について・・・
- 拠出可能年齢の上限の引き上げ。
- 利便性向上や働き方の多様化等への対応。
- 更なる税優遇のための拠出限度額の見直し。
その他、高齢者が高い割合で持っている既存住宅の流通を活性化させるため、リフォーム市場の活性化や住宅価値の適性評価などの環境整備が必要。
資産の次世代への有効な継承も重要である。株など時価で算出されるの有価証券より一般に時価より低い路線価で算出される不動産のほうが相続に有利なことから歪みが生じている。これも今後検討すべき課題となる。
また、企業経営も高齢化が進んでいるため事業承継も同様に重要となる。金融サービス提供者が非上場株式の事業承継を円滑にすることが期待される。
金融リテラシーの向上
「つみたてNISA」などの制度が幅広く利用されるために金融リテラシーの向上に向けた取り組みも重要。
これまでも金融庁などが各方面で授業やセミナーを開催し資産形成について取り扱ってきたが、今後これをより一層強化するべき。本報告書についても広く浸透を図りたい。
多くの人にとって退職金は大きな柱であることから、企業内での取り組みも重要。額として大きいため十分に使途の検討に時間をかけるべきで、その額が具体的にいくらになるのかの見通しを出来る限り早い時期に雇用者から従業員に知らせるべき。
金融リテラシー向上という面で企業年金の役割も重要。運用状況や給付額について、より本人が把握しやすくする工夫が必要。
確定拠出年金制度(DC)を採用している企業は従業員に対する投資教育の義務がある。またDCを採用していなくても積極的に投資教育に取り組んでもらいたい。
アドバイザーの充実
個々人の多様性に伴い商品やサービスも多様化してきているため、もはや個々人が自力で最適なものを選択するのは困難である。よって的確にアドバイスができるアドバイザーの存在が不可欠となる。
現状ではそれぞれの身近な金融機関がその役となりうるが、単一の金融サービス提供者では全ての商品・サービスを俯瞰したアドバイスをすることは難しい。
顧客の最善を求め俯瞰で見れるアドバイザーが強く求められており、これになり得るのは投資助言・代理業、金融商品仲介業、保険代理店やファイナンシャルプランナーなどであるが、まだ日本では認知度は低く数も少ない。今後の向上が望まれる。
高齢顧客保護のあり方
高齢期となった顧客へは、多様化に伴い個社レベルで個々人に応じたきめ細やかでメリハリのきいた対応が求められてきている。
また本人が望む場合には認知・判断能力の低下・喪失後にも資産運用を続けられることが望ましい。そのために成年後見人制度があり、他国の例も参考にしながら関係省庁が連携して検討していくべきである。
おわりに
日本人は長生きするようになり、且つ昔に比べて高齢でも元気になり社会で活躍し続けている。
しかし、寿命が延び活動し続けるということはそれだけお金がかかるということ。豊かな老後を楽しむためには健康と同様にお金も重要である。
この観点からライフステージ毎に知っておくべきことを紹介してきた。
特に2025年は近々団塊の世代が75歳を迎える年。前述の通り認知症の有病率は大きく上昇し、誰にも起こりうるという前提の下、これに備え対応することは本人だけでなく家族など周囲を混乱させないという意味でも必要なことである。
個々人の多様化に伴い、取るべき対応は多種多様である。老後を遠い未来のことと考えず、今後のライフプラン・マネープラン作成など対応は早ければ早いほど良い。
そして個々人や金融サービス提供者、行政機関などあらゆる主体が「自分ごと」として議論していくことが期待される。
<以上>